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問題社員への対応は、職場秩序の維持と法的リスクの回避の両面から、慎重な検討が求められます。
本記事では、解雇の要件、手続き、判例を通じて、企業がとるべき適切な対応を解説します。
目次
企業内で問題行動を繰り返し、職場の秩序や他の社員に悪影響を及ぼす問題社員がいた場合、企業としては、その社員にすぐに辞めてもらいたいと考えるのが一般的です。
しかし、解雇は、客観的に合理的な理由があり、かつ社会通念上相当と認められなければ、権利濫用として無効とされてしまいます。もし解雇が無効と判断された場合、解雇時から復職時までの未払賃金(いわゆる「バックペイ」)の支払い義務が発生するなど、企業には多大な経済的負担が生じる可能性があります。
問題社員を解雇した場合、本人が解雇の有効性に納得せず、争いに発展する可能性があります。万一、解雇が無効とされた場合には、前述のとおりバックペイなどの経済的負担が発生します。
そのため、問題社員に退職してもらいたいと考える際には、まずは自主的な退職を促す「退職勧奨」を検討するべきです。円満な合意退職を目指すことで、企業にとってもリスクを回避しやすくなります。ただし、退職勧奨の方法が社員の自由意思を侵害するような場合には、違法と判断されることもありますので注意が必要です。
解雇は、企業が一方的に雇用契約を終了させる手続きですが、その種類には「普通解雇」と「懲戒解雇」があります。
懲戒解雇は、対象社員が被る不利益が大きいため、普通解雇よりも厳しく有効性が審査されます。
やむを得ず解雇する場合には、まずは普通解雇の検討が基本です。
石炭石油製品等の販売を目的とする会社に勤務する従業員が、会社に無断で業務関連情報 (取引に関する商品販売先の社名、担当者名、連絡先、交渉経過のメモ、受注数量、単価等の情報)を私物の記録媒体(ハードディスク)に保存をして、自宅に持ち帰りました。ハードディスクがなくなっていることに気付いた会社は、従業員が会社の機密情報が入ったハードディスクを自宅に持ち帰った行為が就業規則上の懲戒解雇事由に該当することを理由として、従業員を懲戒解雇しました。
判決では、ハードディスクに保存された情報が外部に流出したか否かは確認されておらず、ハードディスクの無断持ち帰りによって会社に何らかの具体的な損害が発生したと認められないことなどから、就業規則上の懲戒解雇事由に該当しないことを理由として、解雇が無効であると判断されました。
介護施設に勤務する介護職員が、すぐに否定的な意見を言い出し相手の話を聞かず話が前に進まない、引継ぎをする業務に困難が生じる、業務を正当な理由もなく一方的に断る、業務の追加・変更があるような場合に業務を拒否したり苦情を言い業務が円滑に稼働しないなどの問題行動を繰り返していました。
施設長は、職員を呼び出して指導をし、勤務態度を改めさせようとしましたが、職員は意に介しませんでした。そのため、施設長は、デイサービス部門への配置転換を打診しましたが(配置転換の勧告は業務命令として行われたものではありませんでした)、職員は配置転換に応じませんでした。そこで、最終的には解雇処分を下したという事例です。
高裁判決では、職員の問題行動を認定しつつも、職員を他の部署に配置転換したり他の上司の下で稼働させることを検討すべきであったにもかかわらず、施設長がデイサービス部門への配置転換を打診したにとどまり、これを超える解雇回避の措置を検討しなかったことなどを理由として、解雇が無効であると判断されました。
漁業協同組組合において信用業務(主に貯金業務)を担当していた職員が、職場で他の職員とほとんど言葉を交わさず、業務上必要な連絡もしないまま仕事を行うなど、必要なコミュニケーションをとらなくなりました。また、貯金名義人の承諾なしに貯金の振替をする、組合の指示に反して貯金払戻請求書を代筆する等の問題行動を独断で繰り返していました。
組合の代表者は職員に3回にわたって注意をしましたが、職員は勤務態度を改めようと全くしなかったため、勤務態度の改善が期待できないものと判断し、最終的には解雇処分を下したという事例です。
高裁判決では、職員の言動により様々な業務上の具体的な支障が生じており、代表者が3回にわたって注意をしたにもかかわらず職員が勤務態度を改めようと全くしなかったことなどを理由として、解雇が有効であると判断されました。
従業員が、3年以上の期間にわたり、就業規則、賃金規定、社宅規程、単身赴任基準、国内旅費規程の要件に該当しないにもかかわらず、単身赴任手当等を受給したり、借上げ社宅に適正な賃料を負担しないで居住していました。
高裁判決では、従業員が積極的に虚偽の事実を申告して各種手当を不正に受給したり本来支払うべき債務の支払を不正に免れたりするなど、雇用関係を継続する前提となる信頼関係を回復困難なほどに毀損する背信行為を複数回にわたり行い、会社に400万円を超える損害を生じさせたこと、懲戒解雇がされるまで明確な謝罪や被害弁償を行うこともなかったことなどを理由として、解雇が有効であると判断されました。
問題社員への対応を怠れば、職場環境の悪化や企業の信用低下を招く恐れがあります。
一方で、対応を誤れば企業が法的責任を問われる可能性もあります。
弁護士法人たいようでは、企業の立場に立った問題社員対応を多数サポートしており、
退職勧奨から解雇手続まで、実務に即した対応策をご提案いたします。
問題社員対応にお困りの際は、ぜひご相談ください。