運送会社の社長が知っておきたい弁護士の使いどころ

~未払い残業代、運賃未回収、重大事故。現場の地雷を踏む前に~

「運送業に強い弁護士を探している」「顧問弁護士をつけるかどうか迷っている」。
本記事は、そういった運送会社の経営者の方に向けて、私たちが実際に相談を受ける中で見えてきた現場のリアルと、弁護士を活用することで何が変わるのかを率直にお伝えするものです。
結論から申し上げると、運送業で弁護士に相談すべきタイミングは「トラブルが起きてから」ではなく、「就業規則を見直すとき」「新しい荷主と契約するとき」「ドライバーが退職するとき」です。

この記事でわかること

  • 運送業で特にトラブルになりやすい3つの法的論点(労務・契約・事故)
  • 退職ドライバーから残業代請求が来たときに、どの程度の金額になり得るか
  • 運賃未回収を防ぐために契約段階でやっておくべきこと
  • 顧問弁護士の費用感と、依頼する前に確認すべきポイント

1 なぜ今、運送業で法務リスクが急増しているのか

運送業の現場では、ここ数年で経営環境が大きく様変わりしました。2024年4月から始まった時間外労働の上限規制(いわゆる2024年問題)、ドライバー不足の慢性化、燃料費の高止まり、荷主からの安全管理体制の厳格化。これらが複合的に絡み合い、以前は問題にならなかったことが、現在では重大なリスクとして顕在化しています。

特に私が実務で目にする変化は、ドライバーの権利意識の高まりです。SNSや退職代行サービスの普及により、退職時にユニオン加入や弁護士への相談に進むケースが目に見えて増えました。「うちは家族的な会社だから」という関係性が、必ずしも法的トラブルの抑止にはならなくなっているのが現実です。
では、具体的にどのような場面でトラブルが起きやすいのか。私たちが実際に相談を受ける中で多いのは、次の3つの場面です。

2 トラブルが起きやすい3つの場面

  1. 退職したドライバーから残業代を請求されたとき

    運送業の労務トラブルで最も件数が多く、かつ金額も大きくなりやすいのが、未払い残業代の問題です。労働基準法の改正により、賃金請求権の時効が2020年4月以降の労働分から3年に延長されています(将来的には5年に延長される見込み)。つまり、一人のドライバーから3年分遡って請求されるだけでも、数百万円規模になるケースは決して珍しくありません。特に争点になりやすいのは、次の3点です。

    ・歩合給に残業代が「含まれている」とする運用が有効か
    (国際自動車事件(最判平成29年2月28日)以降、要件が厳格化)

    ・固定残業代(みなし残業)が、就業規則、賃金規程、労働条件通知書のすべてで整合的に定められているか

    「うちは歩合給の中に残業代も入れているから大丈夫」と説明される経営者の方は多いのですが、判例上、歩合給と残業代部分を明確に区分して計算できる仕組みになっていなければ、その主張は通りません。給与体系を一度も弁護士のチェックを受けずに運用している場合、リスクの大きさを早めに把握しておくことをおすすめします。

  2. 運賃が支払われない、または不当な減額を求められたとき

    「請求書を出しても支払日に入金がない」「納品後に難癖をつけられて値引きを求められた」。こうしたご相談は、燃料費の高騰が続いてからは特に増えています。
    ここで重要なのは、トラブルが起きてから契約書を見直すのでは遅いということです。基本契約書や個別の運送引受書に、待機時間料金、附帯作業料金、燃料サーチャージの取扱い、減額の禁止、支払期日と遅延損害金の利率といった条項が明記されていれば、相手方も無理な要求を出しにくくなります。逆に契約書がない、あるいは形式的な一枚紙しかない状態では、交渉の土台そのものが弱くなってしまいます。
    また、荷主との関係では、下請法(下請代金支払遅延等防止法)や、2024年5月に成立した「物流総合効率化法、貨物自動車運送事業法等改正法」(いわゆる物流2法)で導入された荷主への規制も、交渉の武器になります。「言われるがまま受け入れるしかない」と諦めている運賃交渉でも、法的根拠を整理して伝えることで状況が変わることはあります。

  3. 重大事故・労災が起きたとき

    交通事故、荷役中のフォークリフト事故、過労を原因とする健康被害。運送業はその業務の性質上、事故と隣り合わせの業界です。
    事故対応で経営者の方が見落としがちなのは、初動の重要性です。事故直後の現場保全、ドライブレコーダーやデジタコのデータ保全、関係者からの事情聴取、これらをどの順序で誰が行うかをあらかじめ決めておかないと、後の刑事・民事の手続で会社側に不利な証拠状況になってしまうことがあります。
    また、運行管理体制に不備があったと判断された場合、運送事業者として行政処分(車両停止・営業停止・許可取消)を受けるリスクもあります。事故対応は「被害者対応」だけでなく、「行政対応」「労災対応」「保険会社対応」が同時並行で進むため、事故が起きてからではなく、起きる前に対応フローを作っておくことが重要です。

3 よくあるご質問

ご相談に来られる経営者の方から、特に多くいただく質問をまとめました。

Q. 顧問弁護士は、月にどのくらいの費用がかかりますか?

A.契約内容によって幅がありますが、中小規模の運送会社向けの顧問契約では、月額5万円から10万円程度が一般的なレンジです。弁護士法人たいようでも、相談頻度や会社規模に応じてプランをご用意していますので、初回相談時にお気軽にお尋ねください。


Q. 顧問契約を結ばずに、トラブルが起きたときだけ相談することはできますか?

A. もちろん可能です。ただし、トラブルが顕在化してからのご相談は、選べる選択肢が限られてしまうことが多いのが実情です。たとえば未払い残業代の問題であれば、就業規則や賃金規程を事前に整備しておけば防げたものが、請求を受けてからでは支払いを前提とした交渉しかできなくなるということです。


Q. 他県の運送会社ですが、相談できますか?

A. Web会議・電話・チャットツールを併用していますので、地理的に離れていてもご相談自体は問題なくお受けしています。ただし、現場の雰囲気や運行管理の実態を踏まえたアドバイスが必要な案件では、初回だけでも実際にお会いしてお話を伺うことを推奨しています。


Q. 就業規則の見直しは、社労士に頼むのと何が違うのですか?

A. 社労士の先生と弁護士は役割が重なる部分もありますが、紛争を見据えた条項設計や、判例の最新動向を踏まえた規程の手当ては弁護士の領域です。実際には、顧問社労士と連携してチェックを行うケースも多くあります。


4 弁護士を選ぶときに見てほしい3つのポイント

最後に、これは私自身が経営者の方からよくいただく逆質問への答えでもあるのですが、運送業の顧問弁護士を選ぶときに見ていただきたいポイントを3つ挙げます。

  1. 運送業特有の法令・実務を理解しているか

    貨物自動車運送事業法、改善基準告示、運行管理者制度、デジタコの取扱い。これらは一般的な企業法務の弁護士が必ずしも詳しい領域ではありません。「運送業の案件を扱った経験がどの程度あるか」を遠慮なく聞いてみてください。

  2. 連絡のレスポンスが速いか

    運送業は、待ってくれません。荷主への返答期限、ドライバーへの即日対応、事故の初動。「明日連絡します」では遅すぎる場面が現実にあります。チャットツールの利用可否、休日や夜間の対応方針を事前に確認しておくことをおすすめします。

  3. 現場の話をきちんと聞いてくれるか

    法律論として正しい答えと、現場で実行できる答えは違うことがあります。実行可能性を一緒に考えてくれる弁護士かどうかは、初回相談での会話のキャッチボールでだいたい分かります。

5 まずは一度、現状の棚卸しから

ここまで読んでくださってありがとうございます。運送業の法務リスクは、ある日突然顕在化するように見えて、実は数年前から少しずつ積み上がっていることがほとんどです。逆に言えば、現時点で大きなトラブルがなくても、それは将来のトラブルがないことを意味しません。
「具体的なトラブルが起きてからではなく、健康診断的に一度見てほしい」というご相談こそ、私たちが最も力を発揮できる場面です。
お電話・メール・問い合わせフォームのいずれからでも構いません。皆様からのお問い合わせをお待ちしております。

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問題社員対応マニュアルの作成について弁護士が解説

問題社員への対応は、企業の秩序維持や健全な職場環境づくりに欠かせない重要な課題です。
しかし、対応を誤ると、不当解雇や労務トラブルなど新たな法的リスクを招く可能性もあります。
本コラムでは、問題社員の特徴や放置するリスク、適切な対応手順、実務上の注意点について、弁護士が分かりやすく解説します。

1 問題社員の特徴

企業経営において、「問題社員」への対応は多くの会社が頭を悩ませる課題です。
問題社員とは、職場秩序を乱したり、業務遂行に著しい支障をきたしたりする従業員を指しますが、その態様は実にさまざまです。
代表的なものとして、以下のような類型が挙げられます。

  1. 能力不足・成績不振型

    業務上必要な能力や知識が著しく不足しており、何度指導・教育を行っても改善が見られない社員です。単に「仕事が遅い」という程度では問題社員とは言えませんが、業務目標を継続的に大幅に未達成にするなど、客観的に能力不足が明らかなケースが該当します。

  2. 勤怠不良型

    無断欠勤・無断遅刻を繰り返す、正当な理由のない長期欠勤が続くといった社員です。就業規則上の服務規律に違反するケースが多く、会社として最も対応しやすい類型の一つです。

  3. 服務規律違反型

    ハラスメント行為(パワハラ・セクハラ等)、社内での暴力・暴言、情報漏洩、横領・不正などの非違行為を行う社員です。被害を受けた他の従業員の保護という観点からも、迅速な対応が求められます。

  4. 職場秩序紊乱型

    上司の指示に従わない、同僚との人間関係が著しく不良で職場の雰囲気を悪化させる、SNSで会社や同僚を誹謗中傷するといった行為が典型例です。
    これらの類型は複合的に見られることも多く、まずはどの類型に当てはまるのかを正確に把握することが、適切な対応の出発点となります。

2 問題社員を放置するリスク

「波風を立てたくない」「証拠が集まってから対応しよう」と問題社員への対応を先送りにすることは、会社にとって大きなリスクをはらんでいます。

  1. 他の従業員への悪影響

    問題社員を放置することで、真面目に働く従業員のモチベーションが著しく低下します。「なぜあの人だけ何をしても許されるのか」という不満は、優秀な人材の離職にもつながりかねません。

  2. 会社の法的責任

    特にハラスメント案件では、被害を受けた従業員から会社に対して損害賠償請求がなされることがあります。労働契約法第5条において、使用者は労働者が安全に働けるよう必要な配慮をすることが義務付けられており(安全配慮義務)、最高裁判所の判例でもハラスメントを放置した会社の職場環境配慮義務違反(法的責任)が明確に認められています。

  3. 問題行為の継続・悪化

    放置することで問題社員が「この会社では何をしても大丈夫だ」と誤った認識を持ち、問題行為がエスカレートするケースは少なくありません。後で対応しようとした際に、すでに状況が悪化し、対応コストが大幅に増加してしまいます。

  4. 解雇の困難化

    対応を先送りにし、適切な指導・改善機会を与えないまま解雇すると、裁判で「解雇権の濫用」(労働契約法第16条)として無効と判断されるリスクが高まります。問題社員対応は早期の記録化と段階的な対応が不可欠です。

3 問題社員への対応ステップ

問題社員への対応は、感情的にならず、法的リスクを念頭に置きながら、段階的・組織的に進めることが重要です。

ステップ①事実の確認と記録

まず、問題となっている行為が客観的な事実として確認できるかを精査します。伝聞情報や感情的な評価ではなく、「いつ・どこで・誰が・何をしたか」を具体的に記録します。日時・場所・発言内容・証人などを記した記録を作成し、できれば書面や電子メール等の客観的証拠とともに保管します。


ステップ②本人への注意・指導(口頭→書面)

最初は口頭での注意・指導から始め、改善が見られない場合は書面による警告へと段階を踏みます。この際、改善すべき点を具体的に明示し、改善のための合理的な期間を設けることが重要です。「何度言っても直らない」という状況を将来の懲戒処分や解雇に向けた証拠として積み上げることが目的の一つです。


ステップ③改善計画の策定と面談

書面での注意をしても改善が見られない場合、業務改善計画を策定します。目標・期限・評価基準を明確にし、本人にも内容を確認・署名させることで、後の紛争時に「改善機会を与えた」という証拠になります。


ステップ④懲戒処分の検討

就業規則の懲戒規定に照らし、行為の重大性に応じた懲戒処分(戒告・減給・出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇)を検討します。懲戒処分は「相当性の原則」が適用されるため、行為の内容と処分の重さのバランスに注意が必要です。


ステップ⑤退職勧奨または解雇の検討

上記のステップを経てもなお改善が見られない場合、退職勧奨または解雇を検討します。退職勧奨はあくまで任意であり、強要や執拗な繰り返しは違法となります。
解雇を行う場合は、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2要件(労働契約法16条)を踏まえた十分な検討が必要です。

4 問題社員対応をする上での
注意点

  1. 感情的な対応を避ける

    問題社員への対応において最も危険なのは、担当者が感情的になることです。「頭にきたから即解雇」という対応は、後に不当解雇として会社が損害賠償を求められる典型的なパターンです。冷静に、手続を踏んで対応することが重要です。

  2. 解雇はあくまで「最後の手段」

    日本の労働法制のもとでは、解雇には厳格な要件が課されています(労働契約法第16条)。裁判例において、解雇が有効とされるためには「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の両方が必要とされています。

  3. 例えば、勤怠不良を理由とする解雇に関しても、裁判例では、会社が十分な注意・指導を行っていなかったとして解雇が無効とされたケースがあります。一方で、改善指導を繰り返したにもかかわらず長期間にわたり改善が見られなかった場合には、解雇が有効と認められるケースもあります。

  4. 懲戒規定の整備と適用の一貫性

    懲戒処分を行うためには、就業規則に懲戒規定が整備されていることが前提です。また、同様の行為に対して処分の重さが社員によって異なると、「不公正な扱い」として処分が無効とされるリスクがあります。過去の処分事例との一貫性を確認することが重要です。

  5. 退職勧奨の適法な実施

    退職勧奨を行う際は、複数回・長時間にわたる面談、強迫的な言動、退職しない場合の不利益を示唆する言動は、違法な退職強要として不法行為責任を生じさせます。あくまで本人の自由意思を尊重した対話として行う必要があります。

5 対応マニュアルに決まりはなく、慎重な対応が必要

「問題社員対応マニュアル」という言葉を聞くと、決まった手順書に従えば解決できるように思われるかもしれませんが、実際はそう単純ではありません。
問題社員対応は、会社の業種・規模・就業規則の内容、当該社員の雇用形態や勤続年数、問題行為の態様・程度・頻度、これまでの指導経過など、さまざまな事情を総合的に考慮する必要があります。

また、同じ「無断欠勤」であっても、勤続1年の社員と勤続20年の社員では、求められる指導のプロセスや処分の重さが異なります。「このケースなら即解雇できる」という万能の公式は存在せず、個々の事案に即した対応が不可欠です。

さらに、不適切な対応は会社が法的リスクを抱えるだけでなく、職場全体の雰囲気や採用ブランドにも悪影響を及ぼします。「問題社員だから強硬に対応すればよい」という考え方は危険です。
だからこそ、問題社員対応のマニュアルは「基本的な流れと注意点を整理したもの」として機能させつつ、具体的な対応は弁護士と連携しながら進めることを強くお勧めします。特に、懲戒処分・解雇・退職勧奨を行う前には、必ず専門家への相談を挟むことが重要です。

6 顧問契約のご案内

弁護士法人たいようでは、中小企業・小規模事業者の皆様を対象とした顧問弁護士サービスを提供しています。
問題社員対応は、一度こじれると会社に大きなダメージをもたらします。しかし、日頃から顧問弁護士と連携していれば、問題が小さいうちに相談し、適切な対応を取ることができます。

顧問契約では、以下のようなサポートが可能です。

  • 問題社員への指導方法・注意書の作成アドバイス
  • 懲戒処分・解雇の前段階での法的リスクチェック
  • 労務トラブルが発生した際の交渉・訴訟対応
  • 就業規則・労務関係書類の整備
  • 労働審判・訴訟における代理

「うちは小さな会社だから弁護士なんて関係ない」というのは過去の話です。むしろ小規模な会社ほど、一人の問題社員が与えるダメージは大きく、早期の法的サポートが不可欠です。まずはお気軽にご相談ください。

顧問契約について

「技術」と「人」を守るために製造業の経営者が知っておくべき、弁護士の活用法

1 はじめに

日本の製造業は、世界に誇るべき宝です。
しかし、現場の経営者の皆様が一番肌で感じておられるように、「良いものを作れば売れる」「技術さえあれば安泰」という時代は、過去のものとなりつつあります。
サプライチェーンの複雑化、慢性的な人手不足と外国人材の活用、働く人々の権利意識の変化、年々厳しくなるコンプライアンス要求等、製造業を取り巻く法的問題は時代とともに多様化しています。

工場の機械をメンテナンスするように、会社の法務もメンテナンスしなければ、ある日突然、経営に大きな支障が生じるリスクがあります。
本記事では、製造業の現場で実際に起きているトラブル事例を踏まえ、トラブルを未然に防ぎ、会社を成長させていくための「弁護士の活用法」についてお話しします。

2 貴社には、この「3つの地雷」が
埋まっていませんか?

製造業の経営において、法的リスクは往々にして目に見えない場所に潜んでいます。
機械の異常なら現場の従業員が気づけるかもしれませんが、法律のトラブルは顕在化するまで静かでなかなか気づけないということがあります。
特に、以下の3つの分野は、多くの経営者様が頭を抱える典型的な例です。


1. 労務管理の地雷(労災・未払い残業)

「うちは昔ながらの家族的な経営だから大丈夫」そう信じていた会社ほど、トラブルが起きたときの衝撃は甚大です。
例えば、生産効率を優先し、安全装置を無効化して作業していたベテラン社員が指を切断する事故が起きたとします。
この場合、会社の全配慮義務違反が問われれば、数千万円単位の損害賠償に加え、労働基準監督署の是正勧告、さらには送検されるケースもあります。
これらの結果として「ブラック企業」としての風評が広まれば、ただでさえ厳しい採用活動が完全にストップしてしまいます。
また、近年急増しているのが、退職した従業員が過去に遡って未払い残業代を請求してくるというケースです。「現場の判断で勝手に残っていただけ」「残業代は手当に含んでいるつもりだった」という言い分は、法的には通用しません。


2. 契約と代金回収の地雷(下請法・理不尽な返品・未払い)

「あそこの会社とは長年の付き合いだから、細かい契約書なんて交わしていない」という会社も散見されます。
もっとも、契約書に不備がある状態で、元請けからの突然の発注キャンセル、金型保管料の押し付け、納品後の言いがかりのようなクレームと返品強要がなされた場合、その後から対応するのは非常に困難です。
これらは、適切な契約書(基本契約書・個別契約書)や、下請法の正しい知識があれば防げる被害です。
また、資金繰りの忙しい製造業にとって、売掛金の未回収は死活問題です。「あそことは取引が長いし、そのうち払ってくれるだろう」という温情が、連鎖倒産という最悪の結末を引き寄せてしまうこともあります。


3. 知的財産とクレームの地雷(技術流出・PL法)

「苦労して開発した自社の独自技術やノウハウ。その図面データを持った従業員が競合他社に転職し、全く同じ製品を安価で作られてしまったら?」 あるいは、「自社部品が組み込まれた製品が市場で事故を起こし、PL法(製造物責任法)に基づく莫大な損害賠償を請求されたら?」
貴社ではこれらのリスクに備えた適切な措置が取られているでしょうか。
後にこんな請求を受けるかもしれない、こんなトラブルが起きるかもしれないという法的なリスクを踏まえて、これらの対策がしっかりとなされた従業員との合意書、取引先との契約書を作成することが非常に重要です。

3 「弁護士は敷居が高い」
と思っていませんか?

「納期が明日なのに、契約書の細かい条文なんて読んでいられない(だから適当な契約書で構わない)」「従業員とは信頼関係で結ばれている(だから従業員との契約も適当でいい)」「弁護士に相談すると、現場の事情も知らずに『法律ではこうです』と杓子定規なことを言われそうで怖い」
そう思われるお気持ちもよくわかります。

実際、多くの経営者様が、トラブルが起きてから初めて私たちの事務所のドアを叩かれます。
ただ、その時の疲弊しきったお顔を見るたびに、「もっと早く相談してくれていれば、このような事態は未然に防げたのに」と痛感します。
製造業の現場は、生き物です。業界特有の現場の空気を理解しないまま、法律論だけを振りかざしても、本当の解決にはなりません。
だからこそ、私たちは「先生」としてではなく、皆様と同じ目線で、ビジネスのパートナーとして悩みを聞きたいと考えています。

4 「製造業に強い弁護士」が入ることで、会社はこう変わります

では、具体的に私たちが介入することで、会社の経営はどう変わるのか。単なる「トラブル処理」以上の価値をご説明します。

  • 契約書のチェックを通じて自社の利益を守る

    契約書のチェックの目的は、単なるリスク回避だけではありません。
    検収期間を明確にする、知的財産権の帰属をはっきりさせる、そし昨今の物価高のような場合に最も重要な「原材料費高騰時の価格転嫁条項(スライド条項)」を盛り込むというように必要な条項自体が会社の利益を守ることにつながることはもちろんです。
    もっとも、それだけでなくこれらを整備することで、取引先に対して「この会社はしっかりしている、足元を見られない」という牽制にもなります。
    また、下請法の知識を活用し、親事業者からの不当な要求(買いたたき、受領拒否など)に対して、関係を壊さずに是正を求める交渉を行うということも考えられます。

  • 労使トラブルの「予防接種」を打つ

    問題が起きてからの対応は、多大な時間とコスト、そして精神的負担がかかります。
    重要なのは予防です。「今の就業規則は、現場の実態に合っているか?」「固定残業代の運用は適法になされているか?」これらを定期的にチェックし、メンテナンスすることで、従業員が安心して働ける環境を作り、結果として生産性の向上や従業員の定着率の改善につながります。

  • 債権回収のスピードと確実性が上がる

    「支払いが遅れていますが、どうなっていますか?」と経理担当者が何度電話しても無視される場合でも、弁護士名義の「内容証明郵便」が届くだけで、相手の態度が一変するということはよくあります。
    弊所で過去に携わった案件でも同様に支払いが滞っている相手方に対して弁護士名義の通知を送付したところ回収につながったということは複数件あります。相手方の資産状況を調査し、仮差押えや訴訟といった法的手段を視野に入れながら交渉することで、支払いの優先順位を上げさせます。「あの会社への支払いを後回しにするとまずい」と思わせることが、回収の鉄則です。

  • クレーム対応の「防波堤」になる

    理不尽なクレーマーや、過大な要求をしてくる取引先の問題は近年よく耳にします。
    これら本来の業務以外対応を現場で行うことで従業員の心身に大きな負担が生じることは想像に難くありません。これらに対し、弁護士が窓口となり対応することで、現場の疲弊を防ぎます。
    また、法的根拠に基づき「できること」と「できないこと」を明確に伝えることで、泥沼化する前に紛争を早期に収束させます。

5 当事務所が提供する製造業向けの
顧問サービス

「弁護士法人たいよう」は、ただ法律に詳しいだけの集団ではありません。
製造業の企業様と長年お付き合いする中で、現場の知識を蓄積してきました。

  • 現場主義のアプローチ

    必要であれば実際に御社の工場へ伺い、製造工程や現場の雰囲気を確認した上で、実態に即した解決策を提案します。「現場を知る弁護士」として、実情に即したアドバイスを行います。

  • 製造ラインを止めないスピード対応

    製造業において、判断が遅れて製造ラインが止まってしまうと莫大な損失が生じてしまいます。
    当事務所には複数の弁護士が所属しており、緊急の案件にもチームで迅速に対応することが可能です。
    また、ビジネスチャットツール(Chatwork)を導入しておりますので、工場長や担当者様からダイレクトにご相談いただくことも可能です。「ちょっと聞きたい」を即座に解決します。

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6 最後に

顧問弁護士を入れるかどうか、依頼するとしてどの弁護士にするかは慎重に判断する必要があります。
特に「話しやすいか」「こちらの意図を汲み取ってくれるか」「現場を理解しようとしてくれるか」。これらは、実際に会って話してみないとわかりません。
何かお困りのことがあれば、まずは一度、ご相談にいらしてください。
今抱えている具体的なトラブルの相談でも構いませんし、「特にトラブルはないが、契約書や就業規則を一度見てほしい」という健康診断的なご相談でも大歓迎です。
日本のモノづくりを守るパートナーとして、お会いできることを楽しみにしています。

協調性のない社員は解雇できるか?~弁護士によるモンスター社員対応~

職場における「協調性のない社員」の存在は、周囲の士気を下げ、チーム全体の生産性を大きく損ないます。
小さな不協和音が、やがて優秀な人材の離職や業績悪化につながり、最終的には企業ブランドそのものを揺るがす事態へと発展しかねません。
「このまま放置して良いのだろうか」――経営者や管理職の方にとって、決して看過できない課題といえるでしょう。

1 はじめに

あなたの会社に、以下のような社員はいませんか?

  • チームの和を根本から破壊する言動を繰り返し、周囲の社員を精神的に疲弊させる。
  • 自らの意見が絶対だと信じ込み、人の話に耳を貸さない。
  • 何度注意しても、業務の基本である「報告・連絡・相談」を無視し、重大なミスを隠蔽する。
  • 他の社員の懸命な努力を「無駄なこと」と断じて、非協力的な態度を貫き通す。
  • 能力不足を指摘されると逆上し、自身の未熟さを棚に上げて、指導者を「パワハラだ」と糾弾する。

このような社員の存在が、真面目に働く社員たちの貴重なモチベーションを奪い、職場の空気を澱ませ、チーム全体の生産性を著しく低下させている。「なんとかしたいが、下手に強く出れば『パワハラだ』と騒ぎ立てられるかもしれない」「かといって、このまま放置すると余計に問題が深刻化していく」
出口の見えない「モンスター社員」問題に、孤独な戦いを強いられ、頭を抱えてはいませんか?

2 協調性のない社員を放置することの
危険性とは

その問題社員を、このまま放置し続けると、あなたの会社はどうなってしまうでしょうか?
最初は、職場の雰囲気が少し悪くなる、コミュニケーションが滞るといった、些細な問題に見えるかもしれません。しかし、その「小さな歪み」は、やがて以下に述べるように会社の土台を揺るがす大きな亀裂へと発展していきます。


第一段階:優秀な社員の離職ドミノ

最も深刻なダメージは、最も真面目で、最も優秀な社員から静かに始まります。彼らは、理不尽な状況に強いストレスを感じています。
「なぜ、あの問題行動が許されて、私たちが一方的に我慢を強いられなければならないのか」「経営陣は見て見ぬふりをしているのか」
このような会社への不信感と、自身の正当な評価がされないことへの絶望感から、より良い環境を求めて、静かに、しかし着実に会社を去っていくのです。一人、また一人と主力メンバーを失うたびに、残された社員の負担は増大し、負の連鎖は加速します。


第二段階:業績悪化と社内モラルの崩壊

キーパーソンを失った組織のパフォーマンスは、当然ながら低下します。チームワークは崩壊し、これまで築き上げてきたノウハウは失われ、業績は目に見えて悪化の一途をたどるでしょう。さらに、「真面目にやるだけ損だ」という空気が蔓延し、社内全体のモラルの崩壊、遅刻や無断欠勤の増加、規律の乱れが常態化する危険性さえあります。


第三段階:企業ブランドの失墜と採用困難

離職した社員からのネガティブな口コミは、インターネットを通じて瞬く間に拡散します。会社の評判は地に落ち、「あの会社は問題社員を放置するブラック企業だ」というレッテルを貼られ、新たな人材の採用も極めて困難になるでしょう。
また、しびれを切らして解雇に性急に踏み切るのは、さらに危険な賭けです。日本の労働契約法は、労働者の地位を厚く保護しています。十分な証拠と適切な手順を踏まない安易な解雇は、不当解雇として労働審判や訴訟に発展する可能性が非常に高いです。結果として、会社側が敗訴すれば、数百万円、場合によっては数千万円もの解決金や賠償金の支払いを命じられるリスクが現実のものとなります。

3 協調性のない社員から会社を守る
法的戦略

協調性のない問題社員への対応は、感情的に行うものではありません。
「正しい手順」と「客観的な証拠」に基づいた戦略が存在します。
その具体的かつ効果的な戦略を以下においてステップごとに解説します。


STEP1
すべての指導を「動かぬ証拠」に変える

すべての基本にして、最も重要なステップです。口頭での注意は、法廷の場では「言った・言わない」の水掛け論となり、残念ながら証拠としての価値はほとんど認められません。法的手続きの絶対的な第一歩は、指導や警告を「書面」という客観的な証拠として記録に残すことです。

※なぜ「書面」でなければならないのか?

書面は、「いつ」「誰が」「どのような問題行動に対し」「具体的にどう改善してほしいのか」を明確に固定化します。これにより、会社として真摯に改善の機会を与えたという事実を、誰の目にも明らかな形で証明することが可能になります。

※「指導書」「注意書」「警告書」の戦略的使い分け

問題のレベルに応じて、以下の通り書面のトーンを段階的に引き上げていくことが有効です。

  1. 業務指導書(改善指導書)

    初期の段階で用います。「〇〇というあなたの行動は、就業規則第〇条に反する可能性があるため、今後は〇〇するように改善してください」といった形で、あくまで教育的な指導として改善を促します。

  2. 注意書

    指導書による指導後も改善が見られない場合に交付します。「再三の指導にもかかわらず、改善が見られないことは遺憾です。〇月〇日までに改善されない場合、より重い処分を検討せざるを得ません」と、少し踏み込んだ表現で反省を促します。

  3. 警告書

    最終通告に位置づけられる書面です。「度重なる指導・注意にも応じず、会社の秩序を著しく乱すあなたの行為は、懲戒処分の対象となり得ます。本書面をもって最終警告とします」と、会社の毅然とした態度を示します。

また、上記の書面を出す場合には、それぞれ以下の項目を記載することを心掛けましょう。

  1. 交付年月日・宛名(社員名)・差出人(会社名・代表者名)
  2. 問題となった具体的な行動(日時、場所、内容を明確に)
  3. その行動が就業規則のどの条項に違反するのか
  4. 求める具体的な改善行動
  5. 改善の履行期限
  6. 期限までに改善が見られない場合に、次の措置(懲戒処分など)を検討する旨

STEP2
「やるべきことは全てやった」という
客観的事実を築く

指導・警告を繰り返してもなお改善が見られない場合、次のステップは「解雇を回避するために、会社としてこれだけの努力を尽くした」という客観的な事実を積み上げることです。これが、最終的な判断を下す際の「正当性」を強力に裏付けます。日本の法律(労働契約法第16条)では、解雇が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は、権利の濫用として無効になると定められています。この「解雇権濫用法理」の壁を越えるために、解雇回避努力は不可欠なのです。

  • 配置転換や職務変更の検討
    「現在の部署や職務が、本人の適性に合っていないのかもしれない」という観点から、配置転換を検討します。本人の能力やスキル、経歴を考慮し、他の部署で再起のチャンスを与えることは、非常に有効な解雇回避努力と評価されます。ただし、明らかに不利益な左遷や、本人のキャリアを無視した嫌がらせと受け取られかねない異動は、逆に訴訟リスクを高めるため、慎重な検討が必要です。
  • 研修の実施
    ビジネスマナー研修、コミュニケーションスキル研修、あるいは業務に必要な専門知識を補うための研修など、本人の問題点に応じて、改善を目的とした教育機会を提供します。研修の受講を命じ、その結果を記録しておくことも、会社の努力を示す重要な証拠となります。
    これらの解雇回避努力のプロセスは、すべて書面(配置転換の辞令、面談記録、研修報告書など)で記録し、保管してください。「会社は一方的に切り捨てようとしたのではなく、最後まで手を差し伸べた」というストーリーを、客観的な証拠で構築することが重要です。

STEP3
最終手段としての「退職」を法的に実現する

これらの手順を丁寧かつ誠実に踏んでもなお、本人に全く改善の意思が見られず、業務への支障や他の社員への悪影響が明白である場合、初めて「退職勧奨」や「普通解雇」といった最終手段が、法的に有効な選択肢として現実味を帯びてきます。

  • 退職勧奨(合意退職の交渉)
    退職勧奨とは、会社から労働者に対して「合意の上で労働契約を終了しませんか?」と退職を促す行為です。あくまで「お願い」であり、強制ではありません。机を何度も叩く、大声で怒鳴る、何時間も拘束するといった行為は、違法な「退職強要」とみなされ、逆に損害賠償を請求される原因となります。
    場合によっては、退職金の上乗せなど、適切な解決条件を提示することで、相手の納得を引き出し、円満な合意退職を目指すことを検討することが必要です。
  • 普通解雇
    退職勧奨にも応じず、問題行動が継続する場合、最終的な選択肢として「普通解雇」に踏み切ります。この段階に至るまでに、【STEP1】と【STEP2】で積み上げた客観的な証拠が、その決定が「客観的に合理的」で「社会通念上相当」であること(労働契約法16条)を証明する生命線となります。
    なお、懲戒解雇は、不正行為など極めて悪質なケースに限定されることが多く、ハードルが非常に高いのが実情です。したがって、多くのケースでは、能力不足や協調性の欠如を理由とする「普通解雇」が、より現実的な法的手段となります。

4 悩んだ時には弁護士へ相談を

これらのステップは、法律の専門知識と個別のケースに応じた細心の注意を要します。一つ手順を間違えれば、それまでの努力が水泡に帰すだけでなく、会社が深刻なダメージを負うことになりかねません。
貴社に生じたトラブルに関して、我々弁護士はプロフェッショナルとして、以下のような業務を通じて解決までサポートをさせていただきます。

  1. 煩雑で精神的負担の大きい面談や書面作成の代行
  2. 法的な見通しに基づく的確な戦略立案
  3. 相手方との冷静な交渉代理
  4. 他の従業員に対する説明責任のサポート

経営者の皆様は、貴社に起きた法的な問題を専門家の手に委ね、本来の業務に集中し、会社の成長戦略を描くことに時間を使ってください。
私たちは、貴社の悩みに寄り添い、最後まで共に戦うパートナーです。健全な職場環境を取り戻し、すべての社員が安心して働ける会社を取り戻しましょう。

横領を理由に解雇できますか?問題社員対応について、懲戒解雇の手順についても解説

「従業員に横領をされたらどうすべきか」──企業にとって考えたくない事態ですが、実際には裁判例や報道も少なくありません。
もっとも、横領が明るみに出るのは企業が自ら公表した場合や刑事事件に発展した場合に限られるため、報道されている事例は氷山の一角にすぎません。
横領は決して他人事ではなく、いつ自社で発生してもおかしくない重大なリスクといえます。
本記事では、横領が発生した際に企業が取るべき法的措置や、実務上の注意点について整理します。

1 横領の定義について

横領とは、自己の占有する他人の物を権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従いこれを利用もしくは処分することをいいます。簡単に言えば、自分が管理・預かっている他人の金や物を自分の物にしてしまうことです。刑法には単純横領と業務上横領があり、業務上横領は10年以下の拘禁刑が定められています。従業員が企業の金・物を横領する場合は業務上横領に該当する場合が多いため、刑法に照らしても、従業員による横領は重大な違法行為といえます。

(横領) 第二百五十二条 自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の拘禁刑に処する。
(業務上横領) 第二百五十三条 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の拘禁刑に処する。

2 横領の際にすぐに
解雇することは危険?

横領は重大な違法行為であり、横領が発覚した場合、企業としてはすぐに懲戒解雇したいところでしょう。しかし、証拠不十分の場合や懲戒手続に不備があると、従業員に懲戒解雇無効の裁判を起こされて敗訴するリスクがあります。仮に懲戒解雇無効となると、従業員の復職を認めたうえ、懲戒解雇から復職までの期間の給与相当額や慰謝料等を支払わなければならなくなります。また、懲戒解雇の場合は退職金不支給とすることが多いでしょうが、懲戒解雇が有効と認められても、横領額によっては退職金不支給が違法とされるケースもあります。
確実な証拠に基づき、手順を踏んだうえで横領した従業員を解雇することが大事です。

3 横領をした従業員への
対応方法のポイント

横領の疑いを把握した場合、事実確認(証拠収集)と証拠隠滅の防止が重要です。
事案によりけりですが、次のような対応が考えられます。

  1. 横領が行われた日時・金額(被害品)・方法を整理する。
  2. 横領を裏付ける資料(虚偽の請求書、支払書類、振込伝票等)を確保する。
  3. 従業員の使用しているパソコンを確保する。
  4. 従業員に自宅待機を命じて証拠物に触れられないようにする。
  5. 従業員に事実確認を行い、内容を証拠化する(議事録や録音)。
  6. 従業員が横領を認めている場合、被害弁償を約束する誓約書や、横領の日時・金額を書いた上申書を提出させる。
  7. 従業員が横領を否定している場合、弁解内容を書いた弁明書を提出させたうえ、弁解内容を否定する証拠を収集する。

4 従業員が横領をした際の対処法

横領が発生した場合、⑴懲戒解雇、⑵退職金不支給の可否、⑶被害回復、⑷刑事告訴、が対処のポイントとなります。


(1)懲戒解雇

懲戒解雇をする際には単に懲戒解雇事由に該当するだけでなく、懲戒解雇するだけの合理性及び社会的相当性が必要ですが、横領の事実が認められる場合、特異な事情がない限り基本的に懲戒解雇の合理性及び社会的相当性は認められるでしょう。もっとも、従業員を懲戒解雇するには、就業規則に則り所定の手続を踏む必要があります。
また、従業員が退職を申入れてから2週間すれば、使用者の承諾がなくとも退職できるため、スピーディーに懲戒手続を進める必要があります。
懲戒手続のポイントは次のとおりです。

  1. 就業規則に横領が懲戒解雇事由として規定されている。
  2. 就業規則に懲戒処分の手続を定めた規定がある場合、遵守する。
  3. 従業員に対し懲戒処分を実施することと対象行為を通知する。
  4. 従業員に弁明の機会を付与する。
  5. 懲戒解雇の通知をする。
  6. 労働基準監督署長に解雇予告手当の除外認定を受ける。

(2)退職金不支給の可否

退職金制度を設けている企業の多くは、退職金規定に退職金不支給事由として「懲戒解雇」を設けています。ですから、横領した従業員を懲戒解雇した場合、退職金規定に照らせば退職金不支給となるでしょう。

しかし、退職金は“功労に報いる”意味合いと“給料の後払い”という性格を併せ持っています。そして、特に給料の後払いという性格があることや、一つの不祥事で長年の功労を無にするのは行き過ぎという視点から、懲戒解雇となった従業員が退職金支給を求める裁判を起こした場合、退職金の一部の支払を命じる判決となることがあります。

懲戒解雇に伴い退職金を不支給とするか、もしくは、一部支給とするかは、過去の裁判例を踏まえつつ、横領の悪質性の程度や社内秩序への影響、訴訟リスクを検討して決定する必要があります。

なお、退職金の不支給事由が「懲戒解雇になった場合」と規定されており、「懲戒解雇に相当する行為があった場合」と規定されていない場合、文言上、懲戒解雇前に退職されてしまうと退職金を支給せざるを得なくなるため、注意が必要です。


(3)被害回復

横領の事実が証拠から明らかな場合、損害賠償請求訴訟をすれば、横領をした従業員に賠償を命じる判決が出る可能性が高いでしょう。とはいえ、判決が出たからといって、判決とおりに支払いがされるわけではありません。まずは話合いにより任意に賠償してもらうことを目指しましょう。
被害回復のポイントは次のとおりです。

  1. 身元保証の確認
    横領による損害を賠償する責任があるのは原則として従業員だけです。例外的に、入社時に身元保証人を立てている場合、身元保証人にも賠償を求めることができます。横領が発生した場合、身元保証人を立てているか確認しましょう。
    なお、身元保証契約の期間は原則3年、最長5年であり、また、保証の上限額を定める必要があるので、身元保証人を立てる場合は注意しましょう。
  2. 従業員との話合い
    身元保証人を立てている場合、従業員と身元保証人と同時に話す方が効果的な場合が多いでしょう。従業員は自分が被害弁償しなければ身元保証人が被害弁償しないといけなくなりますので、身元保証人の前では被害弁償できないという話はしにくいでしょう。
    従業員の親族が被害弁償をする場合もあります。親族は当事者ではないので話合いへの同席を強制できませんが、従業員の承諾を得たうえで、親族に話合いへの参加を依頼するのもよいでしょう。
    話合いでは、被害弁償を促すために、被害弁償をした場合は刑事告訴しないという説得をすることになるでしょうが、脅迫として問題にならないよう、行き過ぎた言動には注意が必要です。
  3. 財産の確認
    一括で被害弁償できることが望ましいですが、従業員から分割でないと払えないと言われることもあるでしょう。その場合、従業員に預金通帳などの財産資料の提出を要求し、財産状況を確認しましょう。
    預金通帳は残高だけでなく、過去分の入出金も確認しましょう。例えば証券会社や保険会社との取引が見つかるなど、新たな財産の発見につながる可能性があるからです。
    確認する期間は少なくとも2年程度、横領が行われた期間が2年以上であればその期間は確認したほうがよいでしょう。
  4. 示談書の作成
    一括払いにせよ分割払いにせよ、被害弁償で合意した場合、示談書を作成します。主な内容は支払金額・条件、被害弁償を完了したら刑事告訴しないこと、分割払いの場合は一回でも履行を怠ったら一括払いをすること(期限の利益喪失条項)などです。
    なお、可能であれば、財産のある親族に連帯保証人になってもらうのがよいでしょう。

(4)刑事告訴

企業としては自社の不祥事を殊更公にしたくないことが多いでしょうが、従業員が横領の事実を否定したり、被害弁償を拒否する場合、刑事告訴を検討することとなります。
刑事告訴をした結果、少しでも軽い刑にするために、一部でも被害弁償される可能性があります。

5 従業員の横領に関する裁判例

横領の事実が証拠から認定できる場合、特異な事情がない限り、懲戒解雇そのものが無効となるのは手続に不備があった場合などに限られるでしょう。そのため、横領に関する裁判例で注目されるのは退職金の支給に関するものです。
特に注目されるのは、二審の高等裁判所が退職金全額不支給を取消したのに対し、上告審の最高裁判所が退職金全額不支給を認めた次の事案です。

最判令和7年4月17日
懲戒免職処分取消等請求事件

事案
政令指定都市の交通局のバス運転手だった男性が、運賃1,000円を着服したことなどを理由に受けた懲戒免職と退職金約1,200万円の全額不支給処分を取り消すよう求めた訴訟。

判断
運賃の着服行為は、公務の遂行中に職務上取り扱う公金を着服したという重大な非違行為であり、バスの運転手は、乗客から直接運賃を受領し得る立場にある上、通常1人で乗務することから、その職務の性質上運賃の適正な取扱いが強く要請され、本件着服行為は、交通局が経営する自動車運送事業の運営の適正を害するのみならず、同事業に対する信頼を大きく損なうものなどの理由で、退職金全部の支給制限は、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできない。

6 横領について就業規則に
記載すべき項目とは

懲戒解雇は就業規則に基づいて行われますので、横領を懲戒解雇事由として規定しておくことが必須です。
また、退職金不支給もしくは一部支給とするため、懲戒解雇事由に該当する行為があった場合には退職金の全部または一部を不支給とする旨を定めておくとよいです。

7 弁護士による問題社員対応

企業で横領が起こった場合、法的知識と実務経験のある弁護士の関与なしに、企業だけで進行することは困難です。
弁護士に依頼した場合、次のようなサポートが受けられます。

  1. 事実調査
    証拠収集、事情聴取、証拠に基づき横領が認定できるか検討
  2. 懲戒手続
    手続規定の確認、手続進行のサポート、懲戒通知書等の作成
  3. 被害回復
    示談交渉、財産調査、示談書作成
  4. 刑事告訴
    告訴状の作成、告訴手続

まずは弁護士にご相談ください

無断欠勤をする社員は解雇できますか?連絡が取れない場合の対処法についても弁護士が解説!

無断欠勤をする社員にどのように対応すべきか、企業として判断に迷う場面も多いのではないでしょうか。
本記事では、無断欠勤を理由に解雇できるかどうか、また連絡が取れない場合の対処法や注意点について、弁護士が法的観点から解説します。

1 無断欠勤を理由に解雇はできますか?

正当な理由なく一定期間無断欠勤した従業員を解雇した場合、仮に従業員に解雇無効で訴えられても、解雇が無効となるリスクは低いでしょう。もっとも、従業員が無断欠勤する場合、事件事故、メンタル不調やパワハラ・セクハラといった問題が潜んでいる可能性があります。
正当な理由のない無断欠勤と即断せず、無断欠勤の原因を確認して慎重に対応することが重要です。

2 無断欠勤とは?

無断欠勤に法的な定義はありませんが、一般に、事前の連絡や正当な理由なく出勤しないことを指すことが多いでしょう。
無断欠勤が発生するのには、いくつかパターンがあります。

  1. 普段から遅刻欠勤を繰り返す従業員が無断欠勤する。
  2. 仕事を辞めたくなって、連絡なしに出勤しなくなる。
  3. 急病やメンタル不調から出勤も連絡もできなくなる。
  4. パワハラ・セクハラなどの職場の問題で出勤も連絡もできなくなる。
  5. 事件事故に巻き込まれる。
  6. 事件事故を起こして逮捕される。

3 14日以上の無断欠勤の解雇について

無断欠勤が何日続いたら解雇できるか明確なルールはありません。
ただし、解雇予告除外認定基準に「2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」が定められているため、実務的には14日以上の無断欠勤が解雇の判断の一つの基準といえます。

14日以上の無断欠勤があった場合でも、就業規則でそれ以上の期間を無断欠勤による解雇の基準として定めている場合には、その期間を経過しなければ適法な解雇とは認められません。
また、企業側に何らかの落ち度がある場合や、出勤の督促を行っていない場合など、事案によっては14日以上の無断欠勤があっても解雇が無効と判断される可能性があります。

なお、公務員の懲戒処分指針では、21日以上の無断欠勤が免職の対象とされているため、より慎重を期す場合には、21日以上の無断欠勤を解雇の判断基準とする考え方もあります。

4 無断欠勤を理由に社員を解雇する際の注意点

無断欠勤がある場合でも、以下の点に注意しながら段階的な対応を行うことが重要です。

1. 14日以上連続する無断欠勤がある場合

  • 理由の確認
    急病やメンタル不調、事件事故に巻き込まれた、職場でハラスメントを受けたなど、事前連絡なしの欠勤がやむを得ない理由がないことを確認します。
  • 出勤の督促
    従業員に連絡を取り、出勤の督促をします。出勤の督促をしたことの証拠とするため、電話だけでなくメールや郵便(内容証明郵便や書留)でも連絡を取るとよいでしょう。
  • 退職勧奨
    解雇は最終手段です。従業員と話合い、従業員から退職届を出してもらうようにしましょう。
  • 解雇
    従業員が退職に応じない場合、就業規則を確認のうえ、解雇します。
    解雇後は連絡が取れなくなることを想定し、貸与物品や健康保険証の返還など、必要な事務手続を確認しておきましょう。
    そもそも従業員と接触できない場合は、解雇通知が従業員に届いたことを証拠化するため、解雇通知は内容証明郵便で送付しましょう。

2. 無断欠勤を繰り返す場合

連続して無断欠勤をしないものの、遅刻や無断欠勤を繰り返す場合、その都度、始末書をとり改善を促しましょう。
遅刻や無断欠勤が改まらない場合、戒告等の軽度の懲戒処分をします。
それでも遅刻や無断欠勤が改まらない場合、退職勧奨します。
従業員が退職勧奨に応じない場合、解雇を検討することになりますが、そのタイミングは遅刻や無断欠勤の頻度や指導・懲戒の状況などに応じてケースバイケースです。

5 従業員が行方不明になってしまった場合の対処法

従業員の安否確認を速やかに行うことが必要です。

  1. 自宅訪問

    自宅を訪問して、在宅しているか確認します。
    不在の場合、連絡がほしい旨のメッセージを郵便受けに入れたり、ドアに挟んだりします。
    一度目が不在の場合、二度目は夜間に訪問して室内灯が付いているか確認してみるのもよいでしょう。

  2. 家族へ連絡

    緊急連絡先となっている家族へ連絡し、家族から従業員へ連絡をしてもらいます。
    企業からの連絡には応じなくても、家族からの連絡であれば応じる可能性があります。
    事件事故に巻き込まれた場合、逆に事件事故を起こして逮捕された場合も、警察から家族へ連絡が入る可能性が高いでしょう。
    家族からも連絡が取れない状況が続く場合、家族から警察へ捜索願を出すよう検討してもらいましょう。

6 弁護士による問題社員対応

従業員の無断欠勤の原因がハラスメントであった場合、企業としては、事実確認のうえ、ハラスメントを行った従業員に対する懲戒処分や再発防止策を検討することになります。弁護士は、ハラスメントの関係者からの事情聴取やハラスメント該当性の判断、懲戒処分手続のサポートをすることができます。

また、無断欠勤を理由に解雇するケースは、14日以上の無断欠勤が継続しておりケースバイケースとはいえ、一応適法に解雇できる可能性が高い場合は少なく、遅刻や無断欠勤を繰り返す従業員の場合が多いでしょう。遅刻や無断欠勤を繰り返す従業員の解雇にあたっては、いきなり解雇せずに指導・懲戒処分を複数回行う等より注意が必要です。解雇に対して訴訟を起こす可能性が高い人物像ともいえ、事前の指導・懲戒処分の段階から弁護士が関与することで、遅刻・無断欠勤等の問題行動の証拠化や指導・懲戒処分の記録化を行うことが重要です。

問題社員への対応にお悩みの企業は、ぜひ一度ご相談ください。